静電容量 Helix を組み立てた

Manta40 を作って以来なので、3年ぶりに自作キーボードを作りました。

goropikari.hatenablog.com

今回作ったのはスイッチがメカニカルでなく、HHKB Professional や REALFORCE と同じ静電容量無接点方式のキーボードです。昔から静電容量無接点方式の分割キーボードが欲しいなと思っていましたがまさか自作キーボードで作れるとは思っていませんでした。 キット化されているものはいくつかあるようですが、Manta40 を3年使ってすっかり格子配列に慣れてしまったので今回は同じ格子配列である「静電容量 Helix」を選びました。

booth.pm

キットが届くまでの予習

静電容量無接点方式の動作原理が全く想像できなかったので 静電容量 Helix を作られた ginjake さんの 真の静電容量キーボードを作る本 - ginjake - BOOTH を読んで予習していました。また、嬉しいことに 静電容量 Helix は PCB データが公開されているのでそれを眺めて脳内シミュレーションをしていました。 ただ、kicad の使い方をよくわかっていなかったので 自作キーボード設計入門 を読みつつ勉強しました。

はんだ付けするチップの向きに悩んだり、導電性チェックするときにどことどこが繋がっているのかわからなかったときに PCB のデータを見ながら確かめていたので kicad の使い方は覚えていて損はないと思います。

材料

キット以外に必要なもの

私はキーボードは光らせない派なので LED 関連のパーツは付けていません。

商品 数量 URL コメント
ProMicro 2 https://shop.yushakobo.jp/products/pro-micro?variant=42225070801127
コンスル 4 https://talpkeyboard.net/items/6229e8c130344b271f290c3c コンスルーがなかった場合は12ピンソケットでも可
NEW NIZ EC SWITCH 64スイッチ分 https://shop.yushakobo.jp/products/5224 遊舎工房で売られているものは30個入りセットなので64キーである Helix には3セット必要です
コニカルリング 64スイッチ分 https://shop.yushakobo.jp/products/4679 遊舎工房で売られているものは30個入りセットなので64キーである Helix には3セット必要です
キーキャップ 64個 NiZ の軸は Cherry MX互換キーキャップ対応です。私は各キーキャップの高さが全て同じならば何でもよかったので DSA プロファイルのものを買いました。
ラバードーム 64スイッチ分 https://shop.yushakobo.jp/products/a0500er-01-1 値段は高いですが DES-DOMES BKE Tactile を使うと東プレの打鍵感に近づくようです
3.5mm オーディオケーブル 1 https://shop.yushakobo.jp/products/trrs_cable
銅線 少し https://akizukidenshi.com/catalog/g/gP-09583/ 抵抗の足を切ったものをジャンパのために使おうかと思っていましたが、穴の直径が小さすぎて入らなかったので 0.29 mm 銅線買いました
絶縁テープ まつうら工業 A種絶縁用、結束用 日東アセテート布絶縁テープ#5 幅19mm 長さ10m 黒

その他あると便利なもの

下で紹介している用具類はなくても作れますがあるととても便利です。

商品 数量 URL コメント
表面実装はんだ付け用ツール SMDクランプ 1 表面実装はんだ付け用ツール SMDクランプ(150mmアーム) (青ラベル) はんだ付けするチップがとても小さいので「仮どめ」に自信がない人は買うと良いと思います。正直ただおさえるための器具に4400円もするのかと最初は思っていましたが買ってよかったとつくづく思いました。
ハンディ顕微鏡 1 レイメイ藤井 顕微鏡 ハンディ ZOOM グリーン RXT203M IC の足と足とあいだの間隔が狭すぎてショートしているのか否かが肉眼では判別できなかったため買いました
フラックス 1 ホーザン(HOZAN) フラックス 鉛フリーハンダ対応 便利なハケ付きキャップ付 容量30mL H-722 チップがとても小さいのでフラックス使わずにはんだ付けするのはとても難易度が高いです
無水エタノール 1 無水エタノール 100ml(掃除) フラックスの洗浄用に使用
キムワイプ 1 キムワイプ 12×21.5cm /1箱(200枚入) S-200 フラックスの洗浄時に使用
黄銅スペーサー(丸)M2, 7 mm 4 https://shop.yushakobo.jp/products/a0800c2?variant=37665435222177 キットには ProMicro のところのアクリルカバー用のスペーサーが入っていないので、カバーをつける場合は必要です
M2 ねじ 4 SRECNO PC ネジセット M2 M2.5 M3 HDD M.2 SSD 固定用平ネジセット ラップトップ スクリューセット 交換用ノートパソコンねじ 収納ケース付き 355本入り アクリルカバー用の M2 用の 4 mm を使いました
Helix ステンレスプレート 2 https://shop.yushakobo.jp/products/helix-stainless-plate アクリルプレートに比べて打鍵感が向上します。5行版は片手単位での販売なので2枚必要です。

製作

ビルドガイドには書かれていない補足情報を残しておきます。

基板の左右

基板はリバーシブルなのでどの基板を右手用・左手用に使うかをまず決めます。目印がないとどっちがどっちだったかわからなくて混乱するので表裏の目印を付けておくと良いと思います。

はんだ付け

ビルドガイド通り銅線でジャンパします。 銅線は左手用の表から通します。

ジャンパすると Pro Micro 用の穴の下図の赤線部分が繋がります。ちゃんと繋がっているかテスターでチェックをすると良いと思います。ちなみに本家の Helix の基板には下図のように Pro Micro を指す位置をシルクで書かれているようですが、静電容量 Helix にはそのようなシルクはありません。右の列と左の列どちらに指すのか正しいのか迷いますが、左右の基板どちらも下図のように右の列に合わせるのが正しいです。コンスルー使っていれば間違えても修正できますが、12ピンソケットを使用する場合は位置に注意してください。

ちなみに、PCB を使っているのだから人力でジャンパなどせずに、基板側で配線すればよいのでは?思って kicad を確認しましたが、Pro Micro の位置に各種パーツを配置しているので PCB 側でやるのは無理だったのだろうなと思いました。

あとはひたすらパーツをはんだ付けしていきます。はんだ付けするのは基本的に基板裏面です。あると便利なものとして上記で紹介したクランプがあると仮どめでパーツがずれる心配をしなくてよいので便利です。

はんだ付けしたら都度顕微鏡を覗いてショートしていないが確認していました。

足の先端がショートしているように見えたが、焦げたフラックスがこびりついているだけだった。

基板の洗浄方法はこちらの動画を参考にしました。 youtu.be

スイッチをはめる

トッププレートにワッシャーとM2スペーサーをM2ネジ(4 mm) で止めてスイッチをはめていきます。下の写真だと全部で6つの M2 スペーサーを付けていますが、ボトムプレートとトッププレートを止めるネジがキットには全部で8個しか同封されていないので四隅にだけ使うのが正解なようです。

打鍵感を比較するために右をステンレスプレート、左をアクリルプレートで一度組んでみました。

キットの説明文に

NiZのスイッチも使えますが、サイズが少し小さい為若干緩めになります。

とあってどういうことかと思いましたが、アクリルプレートを使った場合だとハウジングが固定されません。トッププレートにハウジングはめてもひっくり返すと全部落ちます。一方でステンレスプレートの場合だと内側の幅がきつめに作られているのかプレートをひっくり返してもハウジングは落ちない程度にはかっちりはまります。というかそれなりの力を込めないとそもそもトッププレートにハウジングがはめられませんでした。またアクリルプレートだと材質的に柔らかいせいかはたまた薄いせいか打っているときに若干プレートがたわむ感覚がありました。そのためステンレスプレートのほうが打っているときに安心感があります。 懐事情が許すならばステンレスプレートを買うのはありだと思います。

NiZ のキーボードについていたスイッチのハウジングと遊舎工房から買った NiZ のハウジングの違い

私はもともと持っていた NiZ キーボードからスイッチは工面できたので新たにスイッチを買う必要はなかったのですが、打鍵感に違いがあるのか知りたかったので30個入りを1セットだけ購入しました。

透明なほうが遊舎工房から買ったもの

NiZ のキーボードの方のハウジングはPCB とハウジングをねじで止めるためのネジ穴がありますが、遊舎工房から買ったものにはありませんでした。またトッププレートにハマる部分の大きさが遊舎工房から買ったもののほうが気持ち小さかったです。NiZ のキーボードから取ってきたハウジングはステンレスプレートにはめるのにかなりの力が必要だったり、側面を削らないと入りませんでした。一方で遊舎工房から買ったほうは力を入れればとりあえずハマりました。 当初は全て NiZ のキーボードからの移植で考えていましたが、あまりにはめるのが大変だったので左手用には遊舎工房で買ったハウジングをはめました。

firmware を焼く

ビルドガイドには

ステンレスプレートを使う場合は config.h の #define STAINLESS_PLATE のコメントアウトを外してください

とありましたが、#define STAINLESS_PLATE という記述は静電容量 Helix 用のファイルには見当たらなかったので β版のときの名残だと思います。

github.com

私の場合は、LED 使っていないのでその設定を切るのと、Dvorak 配列ユーザーなので keymap を Dvorak に変更しました。

github.com

avr-gcc 12 だと bug があるらしくうまく compile できませんでしたが、AVR_CFLAGS="-Wno-array-bounds" をつけると通せるというのを qmk firmware の issue から見つけて事なきを得ました。

make ec_helix:dvorak:avrdude AVR_CFLAGS="-Wno-array-bounds"

github.com

qmk firmware は進化が早いのか設定を数年放っておくとコンパイルがそもそもできなくなったりする(実際 corne と manta40 の設定がコンパイルできなくなった)ので自力で firmware を書ける自信がない場合はキット購入前に自分の環境でコンパイルできるかちゃんと確かめたほうがよいと思います。

完成

作り始めてからおよそ1週間で完成しました。予備として基板が余分についてくるというそれだけで組み立て難易度の高さが伺えますが、一つも予備パーツを使うことなく無事に作ることができました。

0.5 mm シャーペンの先との比較

たまに反応の悪いキーがあるのでまだまだ調整が必要そうですが、最低限使える反応速度にはなりました。ボトムプレートのネジの締付け具合でキーの反応具合が変わったりするので静電容量無接点はなかなかシビアだなぁと思いました。

個人的にキーボードは片手3x6 + 親指 3 keys がベストだと思っているので、今後は理想の分割静電容量無接点キーボードの設計もできたらなぁと思います。

ハウジングの色が揃っていないので気持ち悪いものの、見えるところではないので気にしない